AmazonのPrime Videoが、AIを活用した自動吹き替え技術の試験運用を発表。まずは英語とラテンアメリカ向けスペイン語で12作品を対象に開始。
AI吹き替え技術の導入で国際コンテンツの壁を低減
Amazonの動画配信サービス「Prime Video」は水曜日、AIを活用した自動吹き替え技術の試験運用を開始すると発表した。この技術により、世界中の視聴者がより多くの国際コンテンツを楽しめるようになるという。
今回の試験プログラムでは、これまで吹き替え対応がなかった12本のライセンス作品が対象となる。その中には「El Cid: La Leyenda」「Mi Mamá Lora」「Long Lost」などが含まれており、最初の対応言語は英語とラテンアメリカ向けスペイン語となる。
Prime Videoの技術担当副社長であるラフ・ソルタノビッチ氏は、「Prime Videoでは、AIを活用した革新により顧客体験の向上を目指しています。AI吹き替え技術は、既存の吹き替えがない作品のみを対象としており、シリーズや映画をより多くの人々に楽しんでもらうための新たな方法を探求しています」と述べた。
AIによる吹き替え導入がもたらす業界への影響
一方で、AI技術の発展はクリエイター業界にとって大きな懸念材料となっている。特に俳優や声優、ライターなどのクリエイティブ職種の労働組合は、AIによる業務代替を「存亡の危機」として警戒している。2023年にハリウッドで発生した脚本家・俳優組合のストライキでも、生成AIがクリエイターの仕事を奪う可能性が主要な争点となった。
Prime Videoの視聴者は世界で2億人を超えており、国境を越えたコンテンツ視聴への関心が高まっている。競合サービスの中には完全にAIに依存した吹き替え技術を試験導入する企業もあるが、Prime Videoは「AIと人間の専門家によるハイブリッドアプローチ」を採用。翻訳・吹き替えの品質を確保するため、AI技術と共にプロのローカライズ担当者が関与するという。
他社のAI吹き替え技術の導入事例
AIを活用した吹き替え技術の導入はPrime Videoだけではない。YouTubeは2023年12月、AIによる自動吹き替え機能を拡張し、パートナープログラムに参加する「何十万ものチャンネル」に適用。英語コンテンツに対してフランス語、ドイツ語、ヒンディー語、イタリア語、スペイン語、インドネシア語、日本語、ポルトガル語の吹き替えを自動生成する機能を提供し始めた。一方で、これらの言語のコンテンツは現状、英語吹き替えのみに対応している。
YouTubeは当時、「この技術はまだ新しく、完璧ではない可能性がある」とコメントしており、AIの翻訳精度やナレーションの自然さが課題として残っていることを認めている。
AIによる故人の声の再現も進行中
また、Lumiere VenturesとAIスタートアップのElevenLabsは、故アラン・ドルヴァル氏の声をAIで再現するプロジェクトを発表した。ドルヴァル氏はフランスにおいて、シルベスター・スタローンの吹き替えを約50年にわたり担当していた声優で、2024年2月に逝去。この技術は、彼の家族の了承を得た上で、スタローンのキャラクターに馴染みのある声を維持するために使用される予定だ。
AI吹き替え技術の進展は、映像業界に新たな可能性をもたらす一方で、声優や翻訳者にとっては大きな課題ともなり得る。Prime Videoの取り組みが、業界全体にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目される。