中国の大手テクノロジー企業であるAlibabaは2月10日、新たな人工知能(AI)モデル「Qwen 2.5-Max」を発表した。同社は、この最新モデルが中国のAIスタートアップDeepSeekの「DeepSeek-V3」を含む複数の先進的なAIモデルを上回る性能を持つと主張している。
特筆すべきは、Qwen 2.5-Maxの発表時期だ。多くの中国企業が旧正月の休暇に入る中でのリリースは、DeepSeekの急速な成長がAlibabaを含む中国国内の競争相手に強いプレッシャーを与えていることを示唆している。Alibaba Cloudは公式WeChatアカウントで、「Qwen 2.5-Maxは、GPT-4o(OpenAI)、DeepSeek-V3(DeepSeek)、Llama-3.1-405B(Meta)をほぼ全ての分野で上回る」と発表した。
急成長するDeepSeekが市場を揺るがす
DeepSeekは1月10日にAIアシスタントを発表し、その基盤となる「DeepSeek-V3」モデルの高性能と低コストで注目を集めた。さらに、1月20日には「DeepSeek-R1」という新たな推論特化型AIをリリースし、米国のシリコンバレーを驚かせた。この急成長により、AI関連企業の株価が急落し、米国の主要AI企業による莫大な投資計画に疑問の声が上がるほどの影響を与えている。
一方、中国国内でもDeepSeekの台頭に対抗する動きが加速している。ByteDance(TikTokの親会社)は1月22日に、自社のAIモデルのアップデートを発表し、Microsoftが支援するOpenAIの「o1」モデルを上回ると主張した。DeepSeekは、最新の「R1」モデルがOpenAIの「o1」に匹敵すると発表しており、中国国内のAI競争は一層激しくなっている。
価格競争の火付け役となったDeepSeek
DeepSeekの影響は価格戦略にも及んでいる。同社は昨年5月、「DeepSeek-V2」モデルをわずか1元(約14円)/100万トークンという破格の価格で提供し、中国AI市場の価格競争を加速させた。これを受け、Alibaba CloudはAIモデルの利用料金を最大97%引き下げると発表。その後、BaiduやTencentといった他の中国テック大手も価格引き下げに踏み切った。
DeepSeekの創業者である梁文峰氏は、中国メディア「Waves」の7月のインタビューで、「価格競争には関心がない。目指すのはAGI(汎用人工知能)だ」と語った。OpenAIはAGIを「経済的に価値のあるほぼ全てのタスクで人間を上回る自律型システム」と定義している。
DeepSeekと中国テック大手の戦略の違い
DeepSeekは、Alibabaのような大企業とは異なる運営モデルを採用している。同社は研究室のような組織体制を持ち、若い博士課程の研究者が中心となって開発を進めている。一方、AlibabaやTencentなどの大手企業は数十万人規模の従業員を抱える巨大企業であり、コスト構造や開発スピードの点で違いがある。梁氏は「巨大テック企業には限界がある。基盤モデルの開発には継続的なイノベーションが必要だ」と指摘している。
DeepSeekの急成長と、それに対抗する中国のテック大手の動きは、今後のAI市場の競争を大きく左右する可能性がある。中国国内だけでなく、世界のAI業界においても、コスト削減と高性能化を両立させたDeepSeekのアプローチがどのような影響を及ぼすのか、今後の展開が注目される。
ニュースソース: Reuters