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建設ロボットは“人を置き換える”だけではない:アシストスーツが変える高齢化現場の安全KPI

建設現場向けパワーアシストスーツの開発イメージ(Image Source: Kajima Corporation)
建設現場向けパワーアシストスーツの開発イメージ(Image Source: Kajima Corporation)

建設ロボットというと、自動施工機械、搬送ロボット、溶接ロボット、巡回ロボットのように「人の作業を機械に置き換える」技術が注目されがちです。しかし、建設現場の課題は、すべての作業を自動化すれば解決するわけではありません。

現場には、鉄筋を結束する、型枠を運ぶ、配管を支える、天井付近で工具を使う、資材を持ち上げる、中腰姿勢で作業する、長時間立ち続けるといった、人の判断や技能が必要な作業が数多くあります。これらの作業をすぐに完全自動化するのは難しい一方で、作業員の身体には大きな負担がかかります。

そこで注目されているのが、建設用アシストスーツや外骨格ロボットです。

アシストスーツは、作業員を置き換えるためのロボットではありません。腰、肩、腕、脚などの負担を軽減し、作業員がより安全に、長く、安定して働けるように支えるウェアラブルロボティクスです。

鹿島建設の技術紹介では、建設業が機械化・自動化・ロボット化を進める一方で、重い物の運搬や設置など多くの作業は今も人手に頼っていると説明されています。また、建設作業者の職業性疾病のうち腰痛関連が大きな割合を占めることを背景に、建設現場向けパワーアシストスーツの開発が進められたと紹介されています。詳しくは鹿島建設の建設業向けパワーアシストスーツ開発インタビューで確認できます。

建設ロボットの役割は、「人を置き換える」だけではありません。これからは、作業員の身体を支え、疲労や腰痛、離職リスクを減らす“人を支えるロボティクス”も重要になります。

建設用アシストスーツとは何か

建設用アシストスーツとは、作業員が身体に装着し、腰、肩、腕、脚などの負担を軽減する補助装置です。外骨格ロボット、パワーアシストスーツ、作業支援スーツ、サポートギアなどと呼ばれることもあります。

アシストスーツには、モーターや空気圧などを使う電動・アクティブ型と、バネ、ゴム、フレーム、弾性素材などを使う非電動・パッシブ型があります。NIOSHは、外骨格をパッシブ型とアクティブ型に分類し、パッシブ型はバネやダンパー、カウンターバランスなどの非動力機構で姿勢や動作を支え、アクティブ型はモーター、空気圧、油圧などで力やトルクを発生させるものと説明しています。

種類特徴向いている作業
腰部サポート型中腰、前屈、持ち上げ時の腰部負担を軽減型枠作業、資材運搬、鉄筋作業、土工、設備搬入
肩・腕サポート型腕を上げた姿勢や上向き作業の肩・首の疲労を軽減天井設備、配管、空調、内装、電気工事、塗装
脚・膝サポート型しゃがみ姿勢、立ち座り、長時間立位を補助床作業、検査、仕上げ、長時間巡回
全身型腰・肩・脚など複数部位を支援重量物作業、特殊作業、長時間高負荷作業
電動型補助力が大きく、センサー制御も可能重作業、繰り返し作業、負荷が明確な作業
非電動型軽量で扱いやすく、現場導入しやすい屋外作業、粉じん環境、長時間装着作業

重要なのは、アシストスーツが「作業員の力を何倍にも増やす装置」ではないことです。建設業向けパワーアシストスーツの選定支援サイトでも、アシストスーツは作業者の身体的負担を軽減し、労働環境を改善するものであり、作業者の力そのものを向上させる製品ではないと説明されています。

なぜ今、建設現場でアシストスーツが重要なのか

建設現場では、人手不足と高齢化が進むなかで、作業員一人ひとりの身体負担をどう減らすかが重要になっています。

腰痛、肩こり、膝痛、疲労、筋骨格系障害は、単なる個人の体調問題ではありません。作業効率、欠勤、離職、労災、熟練技能者の継続就労、若手人材の定着にも影響します。

NIOSHは、建設労働者は作業関連の筋骨格系障害のリスクが高く、外骨格はその予防に使える可能性があると整理しています。また、建設業では反復動作、力作業、不自然な姿勢が筋骨格系障害の要因になりやすいと説明されています。

建設現場でアシストスーツが重要になる理由は、以下のように整理できます。

現場課題アシストスーツで期待される効果
高齢化熟練作業員が身体負担を抑えながら働き続けやすくなる
腰痛・肩痛中腰、持ち上げ、肩上げ作業の負担を軽減
離職リスク「きつい作業」を減らし、現場定着を支援
若手採用身体負担を軽減する職場づくりを訴求しやすい
労災リスク過負荷や疲労によるヒヤリハットを減らす可能性
作業品質疲労による集中力低下や姿勢崩れを抑えやすい
休憩設計疲労データや作業後アンケートと組み合わせて改善できる

建設ロボットを「人手不足の代替手段」としてだけ見ると、完全自動化できる作業に目が向きがちです。しかし、現実の建設現場では、人が判断し、人が施工し、人が確認する作業が多く残ります。だからこそ、人を支えるアシストスーツは、建設DXの重要な一部になります。

建設現場で負担が大きい作業

アシストスーツの導入では、まず「どの作業の、どの身体部位に負担がかかっているのか」を把握する必要があります。すべての現場に同じアシストスーツが合うわけではありません。

作業主な負担部位導入を検討しやすいアシスト
型枠材の運搬・設置腰、背中、腕腰部サポート型、全身型
鉄筋の持ち運び・結束腰、膝、肩、手首腰部サポート型、脚サポート型
設備配管・天井作業肩、首、腕肩・腕サポート型
内装・ボード取付肩、腕、首、腰肩・腕サポート型、腰部サポート型
電気・空調工事肩、首、腕肩・腕サポート型
重量物搬入腰、背中、脚腰部サポート型、全身型
長時間立位・巡回脚、膝、腰脚・膝サポート型
中腰での仕上げ・検査腰、膝腰部サポート型、脚サポート型

鹿島建設の開発事例でも、建設現場では作業姿勢が多様であり、医療・物流向けに設計された既存スーツがそのまま合うとは限らないため、現場の動作分析や作業員のフィードバックをもとに調整したことが紹介されています。

アシストスーツは、「腰痛対策だから腰部用を買う」という単純な選び方ではなく、作業姿勢、重量物の有無、装着時間、ハーネスとの干渉、夏場の暑さ、粉じん、雨、移動の多さまで含めて選ぶ必要があります。

腰痛対策としてのアシストスーツ

建設現場で最も分かりやすい導入目的は、腰部負担の軽減です。

型枠、鉄筋、資材搬入、設備機器の設置、土のう運搬、コンクリート製品の取り扱いなどでは、持ち上げ、下ろし、前屈、中腰、ひねり動作が発生します。これらの作業が繰り返されると、腰への負担が蓄積します。

腰部サポート型アシストスーツは、前屈姿勢や持ち上げ動作の際に、腰や背中にかかる負担を軽減することを目的とします。バネや弾性体で上半身を支えるタイプ、モーターで補助するタイプ、腰回りから太ももにかけて力を分散するタイプなどがあります。

ただし、腰部アシストスーツは、重量物を無制限に持てるようにする装置ではありません。過大な重量を持ち上げる作業は、そもそもクレーン、台車、リフト、搬送機械、作業手順の見直しで減らすべきです。アシストスーツは、機械化できない細かな作業や、どうしても人が行う必要がある作業を支援するものとして考えるべきです。

肩上げ作業・上向き作業での活用

建設現場では、肩より上に腕を上げ続ける作業も多くあります。天井配管、空調ダクト、電気配線、スプリンクラー、ボード取付、塗装、研磨、仕上げなどです。

肩・腕サポート型の外骨格は、上向き作業や反復的な肩上げ作業での負担軽減に向いています。HiltiのEXO-S Shoulder Exoskeletonは、肩より上で作業する際の肩・首の疲労軽減を目的とした建設用外骨格として紹介されており、天井・壁の下地固定、ボード取付、壁・天井の研磨、配管・スプリンクラー・空調ダクト・ケーブルラックなどの頭上作業に適用できると説明されています。

肩・腕サポートが有効な作業期待される効果
天井配管肩上げ姿勢の維持負担を軽減
ダクト・空調設備取付長時間の上向き作業を支援
電気配線・ケーブルラック腕の疲労を抑え、作業姿勢を安定
ボード・内装作業反復的な腕上げ作業の負担を軽減
研磨・塗装肩・首の疲労軽減と作業継続性向上

肩上げ作業では、筋力の強い作業員でも疲労が早く蓄積します。疲労が増えると、工具の保持が不安定になり、姿勢が崩れ、作業品質や安全性にも影響します。アシストスーツは、こうした疲労の蓄積を抑えるための安全投資として考えられます。

作業員を“置き換える”のではなく“支える”ロボティクス

建設用アシストスーツの本質は、人を不要にすることではありません。むしろ、人が持つ判断力、技能、経験を活かしながら、身体的な負担を減らすことにあります。

置き換えるロボット支えるロボティクス
作業を機械に代替させる作業員の身体負担を軽減する
自動施工・自動搬送が中心腰・肩・腕・脚の補助が中心
人の作業を減らす人が安全に働き続けられるようにする
工程全体を自動化しやすい作業に向く複雑で人の判断が必要な作業に向く
設備投資が大きくなりやすい比較的小さく始めやすい場合がある

建設現場では、完全自動化が難しい作業が多くあります。現場条件が日々変わり、狭い場所や不整地も多く、作業対象も一品一様です。そのため、人が判断しながら作業する場面は残ります。

アシストスーツは、こうした現場において「人が作業する前提」を否定せず、その作業を安全に続けられるよう支える技術です。

導入前に見るべき選定ポイント

アシストスーツは、現場に合わなければ使われません。性能が高くても、重い、暑い、動きにくい、ハーネスと干渉する、着脱が面倒、作業姿勢に合わない場合、現場で定着しにくくなります。

日本でも、建設業向けにアシストスーツの選び方を整理する動きが出ています。建設業向けパワーアシストスーツの選定支援サイトでは、電動式と手動式の違い、現場ごとの負担部位、導入時の注意点、現場に合う製品選定の重要性が整理されています。特に、製品ごとに得意・不得意があり、作業に合わないと「効果がない」と感じられて使われなくなる可能性があると説明されています。

選定ポイント確認すべき内容
対象作業持ち上げ、中腰、肩上げ、立位、歩行のどれを支援するか
負担部位腰、肩、腕、膝、脚のどこに負担が集中するか
装着時間数十分の作業か、一日中装着する作業か
重量長時間着ても疲れない重さか
可動性歩く、しゃがむ、登る、ひねる動作を妨げないか
安全具との相性フルハーネス、安全帯、工具袋、空調服と併用できるか
環境適性屋外、雨、粉じん、暑熱、寒冷に耐えられるか
着脱性朝礼後や作業切替時に簡単に着脱できるか
メンテナンスバッテリー、清掃、消耗品、保管方法に無理がないか
現場受容性作業員が実際に着たいと思えるか

導入では、カタログスペックだけでなく、現場での試着、作業テスト、作業員アンケートが重要です。

KPIで見るアシストスーツ導入効果

アシストスーツの導入効果は、「何着導入したか」ではなく、作業員の負担と現場安全がどう変わったかで評価する必要があります。

KPI項目内容改善に使えるポイント
腰部負担スコア作業前後の腰の負担感、姿勢分析、筋活動など腰痛リスクの見える化
肩部負担スコア肩上げ作業後の疲労感、腕保持時間設備・内装作業の改善
作業後疲労終業時の疲労アンケート、疲労回復時間過負荷作業の特定
休憩頻度作業中の休憩回数や休憩理由作業計画と人員配置の見直し
作業継続時間無理なく継続できる作業時間長時間作業の負担管理
腰痛・肩痛申告件数月次の体調申告や安全衛生記録労災予防と健康管理
労災・ヒヤリハット件数疲労や姿勢崩れに関係する事象安全対策の効果確認
離職リスク身体負担を理由とする退職・配置転換の兆候人材定着への影響
熟練作業員の継続就労高齢作業員が無理なく続けられる作業範囲技能継承と人材活用
装着率対象作業で実際に装着された割合現場定着度の確認
継続使用率導入後も使われ続けている割合製品選定と運用の妥当性

アシストスーツは、単純な作業スピードだけで評価すると効果を見誤ることがあります。重要なのは、疲労、痛み、ヒヤリハット、休憩、継続就労、離職リスクのような安全・健康KPIです。

建設会社・協力会社・作業員での活用イメージ

アシストスーツは、元請会社だけでなく、協力会社や作業員本人にとってもメリットがあります。

関係者活用イメージ
建設会社高齢化対策、労災リスク低減、働きやすい現場づくりに活用
協力会社作業員の身体負担を減らし、人材定着と採用に活用
作業員腰・肩・腕の負担を軽減し、疲労を抑えて働きやすくする
安全衛生担当作業負荷の高い工程を特定し、改善策として導入
現場監督者作業計画、休憩計画、作業員配置の改善に活用
人事・採用担当高齢者・女性・若手が働きやすい職場づくりの訴求に活用

導入時に大切なのは、「会社が買ったから使う」ではなく、作業員が「これなら楽になる」「作業しやすい」と感じられることです。

導入時に注意すべきポイント

作業内容に合わない機種は定着しない

アシストスーツは、作業内容と負担部位に合っていなければ効果を感じにくくなります。腰部サポート型を肩上げ作業に使っても効果は限定的です。肩サポート型を頻繁にしゃがむ作業で使うと、動きにくさが問題になる場合があります。

導入前には、作業別に負担部位を整理し、試着と実作業テストを行うべきです。

身体能力を過信させない

アシストスーツを着用すると、負担が軽く感じられる場合があります。しかし、それによって本来避けるべき重量物を無理に持つ、休憩を減らす、長時間作業を増やすと、逆にリスクが高まる可能性があります。

アシストスーツは、危険作業を正当化する道具ではありません。作業手順、重量制限、休憩、機械化とセットで運用する必要があります。

フルハーネスや工具装備との干渉を確認する

建設現場では、フルハーネス、安全帯、工具袋、空調服、防寒着、ヘルメット、無線機などを同時に装着します。アシストスーツがこれらと干渉すると、動きにくくなったり、安全装備の機能を妨げたりする可能性があります。

現場で使う装備をすべて着けた状態で確認することが重要です。

暑熱・粉じん・雨天環境を考慮する

夏場の屋外現場では、アシストスーツの装着によって暑さや蒸れが増える可能性があります。粉じんや雨が多い現場では、可動部やバッテリー、布部材の耐久性も確認が必要です。

特に電動型では、バッテリー稼働時間、充電体制、防水防じん性、故障時対応を確認する必要があります。

現場の声を反映する

鹿島建設の事例では、作業員のフィードバックを取り入れながら、建設現場の動きに合うように調整したことが紹介されています。現場で使い続けられるアシストスーツにするには、実際に装着する作業員の声が不可欠です。

導入後も、疲労感、動きやすさ、痛み、使わなかった理由、改善要望を定期的に集めるべきです。

現場で使えるアシストスーツ導入チェックリスト

  • 対象作業は重量物運搬、中腰作業、肩上げ作業、長時間立位のどれか
  • 負担が大きい部位は腰、肩、腕、膝、脚のどこか
  • 作業員の年齢層、体格、経験年数を考慮しているか
  • フルハーネス、安全帯、工具袋、空調服と併用できるか
  • 屋外、粉じん、雨、暑熱環境で使えるか
  • 電動型の場合、バッテリー時間と充電体制に問題はないか
  • 非電動型の場合、補助力と動きやすさのバランスは適切か
  • 着脱に時間がかかりすぎないか
  • 作業員が実作業で試着したか
  • 作業後疲労や腰部負担をアンケートで確認するか
  • 装着率と継続使用率をKPIとして管理するか
  • アシストスーツに頼りすぎず、機械化や作業手順改善も行うか
  • 導入後に現場の声を集めて機種や運用を見直すか

このチェックリストの目的は、アシストスーツを配ることではありません。どの作業の負担を減らし、どの作業員が安全に働き続けられるようにするかを明確にすることです。

まとめ

建設用アシストスーツは、作業員を置き換えるロボットではありません。腰部、肩部、腕、脚の負担を軽減し、作業員が安全に働き続けるための“支えるロボティクス”です。

建設現場では、高齢化、腰痛、肩上げ作業、重量物運搬、長時間作業、離職リスクが大きな課題になっています。自動施工機械や搬送ロボットだけでなく、人が装着して身体負担を減らすアシストスーツも、建設DXと安全管理の重要な選択肢になります。

導入効果は、作業スピードだけでなく、腰部負担、作業後疲労、休憩頻度、労災リスク、離職リスク、熟練作業員の継続就労といったKPIで見るべきです。

これからの建設ロボットは、「人を置き換える」技術だけではなく、「人がより安全に、長く、健康に働けるよう支える」技術として広がっていきます。アシストスーツは、高齢化する建設現場において、現場の人を守り、技能を活かし続けるための実践的なロボティクスになっていくでしょう。

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