米コロンビア大学のコンピュータサイエンス専攻の学生、チュンギン(ロイ)・リー氏(21歳)は、Amazon、Meta、TikTokからインターンシップの内定を得たが、それらの企業に入社するのではなく、自らのスタートアップを立ち上げることを決断した。その事業内容は、ソフトウェアエンジニアがAIを活用して技術面接を「攻略」するための支援サービスだ。
「今や誰もがAIを使ってプログラミングをしています。面接の形式がAIの利用を前提としていないのはおかしい」とリー氏はCNBCの取材に対して語っている。同氏の行動に対し、コロンビア大学は懲戒手続きを開始したとされるが、大学側は個別の学生に関するコメントは控えている。
リー氏のスタートアップ「Interview Coder」は、ソフトウェアエンジニアがリモート面接でAIを活用して最適な回答を得るためのツールを提供している。これらのAIアシスタントは、コードの作成や改善、詳細な説明の提供をリアルタイムで行う。特に、ZoomやGoogle Meetなどのプラットフォームでの検出を回避できる「不可視性」が売りの機能となっている。
AIによる面接不正の広がりと企業の対応
新型コロナウイルスのパンデミック以降、リモート面接が一般的になったことで、AIを活用した不正行為が増加している。Googleのスンダー・ピチャイCEOは、同社のコードの25%以上がAIによって書かれていることを明かしており、AIがエンジニアの業務に浸透している実態を示している。しかし、この流れが面接にも及び、企業は対策に苦慮している。
採用担当者の間では、「候補者の目の動き」「回答の不自然な流暢さ」「画面の反射」などを手掛かりにAI利用を見破る試みがなされているが、AIツールの進化により検出が難しくなっている。ソフトウェア開発者のヘンリー・カーク氏は「AIを使った不正行為は、以前より見抜きにくくなっている」と警鐘を鳴らす。
GoogleはAIを利用した不正を防ぐため、対面面接の復活を検討している。また、Deloitteは英国の新卒採用において対面面接を再導入し、Anthropicは候補者に対してAIツールの使用を禁止する方針を明確にしている。Amazonも、面接や評価プロセスでの「未承認ツールの使用を禁じる」規定を導入した。
AIツールの台頭と業界の課題
「Interview Coder」や「Leetcode Wizard」などのAIツールは、ソフトウェアエンジニアの面接対策として急速に広がっている。特にLeetcodeを基盤とした技術面接の形式に対して、多くのエンジニアが不満を抱いている。Metaのエンジニアであるライアン・ピーターマン氏は「Leetcodeの問題は実際の業務と乖離しており、候補者をふるいにかけるための手段に過ぎない」と批判している。
リー氏も「Leetcodeのために600時間を費やしたが、苦痛でしかなかった」と語り、AIを活用した代替手段を提供することを決意した。彼のスタートアップは急成長しており、月額60ドル(約9,000円)のサブスクリプションサービスを提供し、5月中旬までに年間収益100万ドル(約1.5億円)に達する見込みだ。
企業と求職者の未来
企業側は、リモート面接の継続か、対面面接への回帰かの判断を迫られている。GoogleのピチャイCEOは「ハイブリッド面接の導入を検討すべき」と発言し、より公平な採用プロセスの模索を進めている。
一方で、リー氏のような若手起業家は、AIを駆使した新たな市場の開拓に乗り出している。「企業が時代の変化に対応できなければ、それは企業の責任だ」と語るリー氏は、今後もAI活用の流れを加速させる意向だ。
ニュースソース: CNBC